過剰品質とは
有形・無形に関わらずユーザーにサービスを提供する以上、よりよい品質を追求する姿勢は組織にとって大切です。ただし、同時に生産性も常に念頭に置いておかなければなりません。
コストを追求するあまり品質が低下することはもちろん避けるべきですが、費用対効果の低い施策にこだわることは企業の存続を危うくするという意味では同義です。
それでは、過剰品質とはどのような状態を指すのでしょうか。
求められる以上の品質のことである
過剰品質とは、文字どおり顧客が想定する範囲以上の過当な製品・サービスを提供している状態を指します。よほど効率的なシステムを整えていない限りは、工数・人員を割くことになりコストパフォーマンスが悪化します。
確かに、競合性が高い業種において品質は高ければ高いほどよいケースも存在しますが、基本的には顧客が想定する110%から120%の満足度に着地するのがベストです。
過剰品質に共通する6つの特徴
組織の上部が十分に過剰品質について認識していても、末端に行けば行くほど、実務的になればなるほど意識が薄れていく傾向があります。
また、個人事業主やフリーランサーなど、目の前のタスクを個別に処理していく業種やマイルストーン・コンペティションでの契約が多い企業ほど、過剰品質の落とし穴にはまりがちです。
以下、過剰品質に見られる特徴を6つに分けて考えてみましょう。
特徴1:サービス向上が目的になってしまっている
本来、サービス向上とはあくまで顧客獲得、つまり利益を獲得するという目的に対する手段の一つであるべきですが、サービスの向上そのものが目的になってしまうというのはよくある事例です。
効果の見えにくい無形のサービスほど、あるいは販売施策が具体性のないものであるほどこの過剰品質の傾向があります。いわば同じ場所で足踏みをしている状態であり、利益を生み出すという本来の目的から外れてしまいがちです。
特徴2:背景にある減点主義
特に日本においては、「リスクをおかしても評価を取りにいく」ということより「失敗をしない」ことが重視される傾向があり、減点主義の構造が見てとれます。模倣するというスタイルでは確かに効果的ですが、創造性・競争性は失われます。
結果、既存の構造を細かく改革することに終始してしまいがちになり、画期的なボリュームアップは望めません。
特徴3:お客様は神様です
「お客様は神様です」という言葉は本来、「一つの物事に対して神前に向かうような気持ちで精一杯努める」という意味です。これが誤用され「顧客を神様のように扱う」というように使われがちです。
顧客満足度とは極論すると「無料で無限大のサービスを手に入れること」です。これは対価に見合ったサービスを提供するという本質から外れており、過剰品質を生み出す大きな原因です。
特徴4:消費者側との認識のずれ
例えば紙コップを購入するユーザーが求めるニーズとは、安価で大量に入っていることでしょう。これに対し、価格が倍で耐久性が3倍の紙コップを販売しても売れません。コップに耐久性を求める場合、紙製を選ばないからです。
このように消費者側とメーカーに想定するニーズの認識のずれがある場合、投入リソースに対して利益回収率が低くなり、相対的に過剰品質になります。
特徴5:SNSによる拡散を恐れる
高度情報化社会において、情報の伝播・拡散速度は昔とは比べ物になりません。偏った一つの意見が世間の目に触れやすくなっていることで、まるで人々の総意のように映る事例も多くなりました。
個人の意見がピックアップされやすいのはよい側面もありますが、個別的な要望全てに応えようとしすぎるとサービスの公共性は失われ、生産性も低下し、結果工数だけが増えた過剰品質になりがちです。
特徴6:提供側の自己満足
よく「こだわりの商品」という言葉を目にしますが、これはあくまでも顧客にアプローチするためのパッケージでなくてはなりません。こだわりが外側ではなく、内側に向いている=自己満足の場合には過剰品質の原因になりえます。
もちろん全ての工程で万全を尽くすことができればベストですが、優先順位の低いものは除外することも時には必要でしょう。
特徴7:自覚のない無駄
基本的なノウハウが組織的に確立しているほど、その影に潜んだ無駄な工程に無自覚になり、過剰品質におちいりがちです。
今現在問題がない(ように見える)システムを解体し新たな手法を構築し、運用を整備することは一時的には非効率です。しかし、技術革新が速い現代では、複数のタスクを統合・管理するツールが矢継ぎ早に開発されています。
情報のアップデートが遅い組織は、局所的な過剰品質を生み出している可能性があります。
過剰品質から脱却する方法とは
過剰品質から脱却するには、今現在組織が定めている規定値を改めて見直すことが必要です。ただし、効率化を追求するあまりサービスの品質を過度に落としてしまうのは本末転倒です。
適正な品質のサービスを提供するにはどのような方法があるのかを考えてみましょう。
1:生産能力を見直す
過剰品質から脱却するための最も直接的な方法は生産能力を上げることです。そのためにはまず各部門・人員の稼働率を把握する必要があります。
稼働率の偏りを平均化することができれば、品質の低下を伴わず効率だけを上げることも可能です。逆にいえば、最大の稼働率でも予測値に届かない場合は、コンセプトかシステムを再検討する必要があるでしょう。
2:品質の棚卸しを行う
過剰品質を適正な品質にマネージメントするには、品質そのものを細かいタスクに分けて棚卸しを行い、優先順位に従ってリソースの再編成を行うべきです。
この施策にはテスト運用が必須であり、急激な変更はリスクを伴います。中長期的な視点での着地点を設定する必要があるでしょう。また、品質の棚卸しにはサービスの優先順位そのものを市場に問うという意味合いも含まれます。
3:サービスと報酬は等価交換である
一杯400円のコーヒーを提供する際、諸経費やアイドルタイムを除外しても時給換算で1,000円の人員を稼動させるのであれば、注文を受けてから20分程度で提供する必要があり、この規定値を越えるサービスは全て過剰品質とみなすことができます。
特に営業・接客業ではコミュニケーションは重要ですが、あくまで付加的サービスであるということを意識し、最短の工数で一定の効果を生むことを優先する必要があります。
4:品質と競争力の関係を見直す
品質と競争力の関係性を見直すには、2つのアプローチがあります。1つは競合他社が力を入れているポイント=現在のユーザーのニーズを把握し、部分的に特化させる方法でしょうかす。もう1つは、新たなニーズを開拓し、競争力の低いポイントで切り込む方法です。
自社サービスを数値化し傾向を検証、次に他社サービスを分析し競争のポイントを設定できれば、プロジェクトの成功・失敗に関わらず過剰品質からは脱却できるでしょう。
5:成果と労力のバランスを見直す
社内におけるプレゼンテーションなどで散見されるのが、不必要に作りこんだ資料を持ち込み、成果と労力のバランスが崩れている事例です。これは仕事の密度を少しでも高め、より評価されたいという人間の心理が関わっていますが、生産性から考えると非効率です。
この場合は企画フェーズ自体を細分化し、前段階でより明確なコンセプトを前提情報として共有化しておく方法が有効です。
過剰品質を抑えて良いものを提供しよう
結局のところ、不必要な部分に力を入れても正しい推進力は得られず、組織の体力を無駄に消耗してしまうことになります。
過剰品質を防ぐというのは運動と似ていて、脱力するポイントと力むポイントを把握しエネルギーを生み出すことが重要です。そのためには力の方向性と目的、ゴールイメージを明確にするべきでしょう。
品質と効率のバランスを意識して、ユーザーが本当に求めているサービスを提供してください。