ホラクラシーとは
近年、自由なワーキングスタイルや組織形成などが注目されています。「ホラクラシー」もその新しいスタイルの1つとして日本企業の経営に採用されています。
「ホラクラシー」とは、もともとアメリカで考案されたシステムで役職や階級のないフラットな組織形態のことを表します。
フラットな形態とは意思決定がチームや個人に分散されるということです。それにより個人が受動的ではなく自主的に仕事に取り組めるよう期待されます。
ティールとは
「ホラクラシー」を検索すると「ティール」という言葉が目に付きます。
「ティール」は「ホラクラシー」と同様フラットな組織形態を表しますが、提唱者が違い定義にも異なる要素があります。
厳密なルールや役割がある「ホラクラシー」に対し、「ティール」には明確なビジネスモデルがなく階層構造を取り入れた組織です。「ティール=ホラクラシー」ではありませんが、社員個人の意思決定権があることは共通する重要ポイントです。
ヒエラルキーとの違い
「ヒエラルキー」との一番の違いは「権限のあり方」です。
「ヒエラルキー」では社長、部長、課長など役職が存在し、役割や権限が各役職により異なります。役職のある者のみ情報量が多く、社員全員が同じ情報を共有できていないことが考えられます。
対して「ホラクラシー」では、会社内のルールの元で各個人に権限が平等に与えられます。同じ情報量が1人1人に行き渡り、主体的に行動することができます。
ホラクラシーのメリット4つ
「ホラクラシー」を導入する際のメリットをご紹介します。
大きく分けて4つありますが、どのメリットも会社経営においては魅力的なものと思えるでしょう。どのようなことが期待できるのか早速見ていきましょう。
ホラクラシーのメリット1:迅速な意思決定
「ヒエラルキー」に存在する階級の制度では、1つの事案を承認する際にかなり時間を費やしてしまう場合があります。課長や部長、さらには社長にまで意思決定を順々に確認する必要があるからです。
「ホラクラシー」ではそのような段階を経ることなく、チームやグループ内で意思決定を迅速に行うことができます。
迅速な意思決定が可能なことで、仕事も円滑に進めることができるメリットもあります。
ホラクラシーのメリット2:主体性の向上
「ヒエラルキー」の場合、上からの指示で部下達は仕事を進めるのが通常のスタイルなので主体性を持って仕事に臨むことは難しい場合があります。
「ホラクラシー」ではチームやグループの少人数で構成されているので個人の意見を述べやすい環境にあり、そのような機会があるということは主体性の向上にも繋がります。
自身の意思決定が仕事に直接反映されることは、自身のモチベーションも上がることになるでしょう。
ホラクラシーのメリット3:業務負担の削減・業務効率化
上部への事業進捗報告書や人事関係では社員の評価報告書など、会社内では多くの社内報告書が存在し組織の管理業務が多くあります。
「ホラクラシー」では組織管理のための業務がないため、その分の時間や人材を事業のための業務に充てることが可能となります。
よって業務負担の削減になりますし、事業の業務に集中することにより効率化も期待できます。
ホラクラシーのメリット4:柔軟な組織運営
「ヒエラルキー」では各部署に人員が配置され、その部署内で社員の役割は決まっています。
「ホラクラシー」ではチームやグループ内で仕事は進めるものの、流動的な配置と言えます。社員は個人の得意分野を生かし自身の役割を決めていますので、部署内の決められた役割を果たすことではなく自身が決めた役割を多様な業務で果たしています。
流動的に業務をこなすことで、柔軟な組織が作られ円滑な運営が可能となります。
ホラクラシーのデメリット4つ
「ホラクラシー」のメリットをご紹介しましたが、デメリットも考えられます。
こちらも大きく分けて4つありますので、どのようなデメリットがあるのか確認していきましょう。
ホラクラシーのデメリット1:自主性が問われる
メリットでご紹介した「主体性の向上」につながることですが、「ホラクラシー」組織では自ら率先して動くことが期待されます。
社員個人が自身の力を発揮できる場が持てると同時に、自主性がなければその力も埋もれてしまいます。自主性がある人材だからこそ、力が発揮できる場所と言えます。
会社としても、自主性のある人材を見つけ採用できるのか、社内でも自主的に働ける環境が整っているのかという課題も出てくるでしょう。
ホラクラシーのデメリット2:状況が把握しにくい
「ホラクラシー」には組織の管理体制がないため、業務の状況など把握しにくい場合があります。
「ヒエラルキー」では上司が部下を管理し状況把握しますが、「ホラクラシー」では個人の業務は個人でマネージメントする必要があります。
チームやグループで仕事を進める中で社員同士が十分なコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことが大切になるでしょう。
ホラクラシーのデメリット3:パフォーマンスの低下
自主性を重んじモチベーションアップにも繋がるメリットもある中、パフォーマンスの低下が考えられます。
「ヒエラルキー」では階級が存在するので、昇進して課長や部長になり収入アップを願う社員が多くいます。それは仕事へのモチベーションアップの要素とも言えるでしょう。
しかし「ホラクラシー」組織ではそれがないために、モチベーションが低下してしまう可能性もあります。
ホラクラシーのデメリット4:リスク管理
「ヒエラルキー」では、承認段階を経ることでリスク回避を実現できています。
「ホラクラシー」ではそのような承認段階がなく、社員個人を信頼し承認を得る形になります。経営者としてはこの信頼こそが一番大切な要素となるでしょう。
業務に関する妥当性や起こりうるリスクを管理することは、社員個人に任せられていると言えます。
ホラクラシー導入企業例6社
2007年、アメリカのソフトウェア企業の創立者であるブライアン・ロバートソン氏が提唱した「ホラクラシー」理論ですが、アメリカ企業だけでなく日本企業にも浸透してきています。
一体どのような企業が「ホラクラシー」を取り入れているのか、導入企業を6社ご紹介いたします。
ホラクラシー導入企業1:ザッポスドットコム
アメリカにある靴のネット通販会社「ザッポス」は、神対応のカスタマーサービスとして全米で有名な大企業です。
2015年「ホラクラシ―」を本格的に導入したきっかけは、階層構造が生み出していた問題を解決するためでした。
社員に「ロール(役割)」という具体的な仕事内容を設定し、その割り当てや自主的に意思決定が行える環境作りに「リードリンク」という役割も設定しました。独自性の感じられる「ホラクラシー」組織です。
ホラクラシー導入企業2:ダイヤモンドメディア
日本初の「ホラクラシー経営」を取り入れたと言われているのがIT企業「ダイヤモンドメディア」です。
「ホラクラシー」が日本に入る前よりホラクラシーの組織構造ができていたということです。
会社内では全情報が公開されています。業務内容だけでなく個人の給与や財務などもオープンにしていて、勤務時間や場所も自身で決めています。また役割を自身で決め仕事を進めているので肩書も自分で考える徹底したホラクラシー組織です。
ホラクラシー導入企業3:アトラエ
人と企業を繋ぐHRTechベンチャー「アトラエ」は、リーマンショックを機に「ホラクラシー」組織へと変わりました。
役職を撤廃しプロジェクト単位でビジネスを行う仕組みを取り入れています。チームには役割の1つであるプロジェクトリーダーがいて、最終決裁や意思決定の権限を持ちます。
給与は社員同士の評価で決定する「360度評価」を導入し、業務に関係する5人を自身で選びその人達に評価してもらう制度です。
ホラクラシー導入企業4:Airbnb
「Airbnb」は世界190カ国以上で宿泊施設などのマッチングサイトを提供しているアメリカの会社です。
この企業では完全な「ホラクラシー」ではなく、マネージャーという仕事は残したままでの組織形態となっています。
しかし「ヒエラルキー」に存在するマネージャーのように指示する立場ではなく、チームを見守る存在であることです。メンバーの調整や手助けをすることで、各メンバーは役割を果たすことができています。
ホラクラシー導入企業5:モーニングスター
世界最大のトマト加工会社「モーニングスター」は、全米シェア 25~30%を扱っています。
トマトの収穫期には2400人もの従業員を持つ大企業ですが、「ビジネスユニット」と呼ばれるチームを作り「ホラクラシー」マネージメントを行っています。
上司のいない「自主管理」の考えのもと、各チームメンバーには意思決定の権限が与えられまています。会社の資金をどのように使い業務を向上させるのかが委ねられています。
ホラクラシー導入企業6:株式会社おかん
ぷち社食サービスを提供する「株式会社おかん」は、2018年に「ホラクラシー」組織に移行した企業です。
事業拡大に伴う従業員増加により、意思決定のスピード低下がきっかけとなりました。
会社のCEOはそのままで、チームを作りフラットな組織を形成しています。チームによってはリーダーを置いていることもありますが、チームメンバー全員に意思決定権があることは「ホラクラシー」組織として機能しています。
ホラクラシー移行の注意点
「ヒエラルキー」から「ホラクラシー」へ組織改革する企業が増えてきていますが、実際どのような点に注意を払わなければいけないのでしょうか。
「ホラクラシー型組織」へ移行する際の注意点を確認していきましょう。
組織の存在価値の明確化
「ホラクラシー」では、役割を持った個人の集合がチームまたはグループで活躍します。
会社の目標が明確であれば、その目標達成のために「どのようにチーム作りをするべきか」そして「個人はそのチームでどのような役割を果たすべきか」を明確にできます。
組織の存在価値は何なのかを明確にし社員に認識してもらうことで、「ホラクラシー」組織は機能することになります。
情報のオープン化
「ヒエラルキー」では権限を持つ役職のみ見ることができる情報が存在しましたが、「ホラクラシー」では基本的に全社員に情報がオープンです。
どこまで情報をオープンにするのかは各企業により異なりますが、情報のオープン化にはまずプラットフォームを構築する必要があります。
また社員全員が同じ情報を共有することになるので、情報の悪用や漏洩など倫理的な教育も必要になってくるでしょう。
評価体系の整備
「ホラクラシー」の評価体系は、各企業が苦戦する整備の1つとなっています。
チーム内での評価や自身で行う評価などありますが、評価基準となるテーブルを作成し、それを元に決定する企業もあります。
人が人を評価する体系を取り入れるのであれば、時には同僚に厳しい評価を与えなければならないこともあります。健全な評価ができるよう会社内の風土作りも大切となるでしょう。
マネジメント機能の有効化
「ヒエラルキー」では上司が部下の管理をすることが基本ですが、「ホラクラシー」には上下関係が存在しないため社員個人が自身を管理する必要があります。
個人が自身の役割を把握しその役割を正しく果たすことが求められます。しかし個人だけでは不十分な時があり、ここで必要なのが「チームマネジメント」です。
チーム内で十分なコミュニケーションを取り、個人が最大限の力を発揮できるようなマネジメントが重要となります。
ホラクラシーのメリット・デメリットをしっかり理解しよう!
アメリカで提唱され導入されてきた「ホラクラシー」ですが、日本企業にも少しずつ取り入れられています。
「ヒエラルキー」の文化とも言える日本企業への導入には難しい点も挙げられますが、移行によりより良い組織体系が形成されることも期待できます。
まずは「ホラクラシー」型が合うタイプなのか、実現可能なのかを見定めることが必要です。メリットやデメリットを判断し、新たな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。