シェアードサービスとは
シェアードサービスとは、企業グループなどに属する複数の企業が、人事や経理や情報などといった事務管理サービスを共有して効率化をはかるビジネスモデルです。
共通機能部分の効率化という意味ではBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と似ていますが、BPOが企業もしくは企業グループ外の専門会社に外部委託するのに対し、シェアードサービスは、あくまで企業グループ内に属する会社に委託します。
シェアードサービスの目的
シェアードサービスの目的は、複数の企業の事務管理サービス部門を共有化することによるコスト削減と、業務の統合による効率化です。
従来のように、企業グループ内の各企業がすべて自前で事務管理などを用意していた時代では、リソースと管理のコストが企業ごとに発生していました。
シェアードサービスは、企業ごとに異なる機能以外を共有することで企業グループ全体としての業務の効率化やコスト削減を実現します。
シェアードサービスのメリット3つ
企業のグローバル化によりグループ会社の拠点が世界各地に分散したため、サービスの提供拠点と受ける拠点を分けてネットワーク経由でサービスをシェアできる環境が必要になりました。
ネットワーク技術の発展により、これまで難しかった遠隔地との情報のやりとりが容易にできるようになったことで、シェアードサービスの実現が可能になりました。
シェアードサービスを採用することで得られるメリットについてご紹介します。
シェアードサービスのメリット1:コスト削減
シェアードサービスのメリットの一つ目は、コストの削減です。
シェアードサービスの導入前は、各社で事務管理サービスなどを構築して、管理・運用をしなければなりませんでした。
共通の業務部分を切り出して一つの組織にまとめることで、それまで各社で用意していたサービスを削減でき、人や設備、管理運用のコストを大幅に削減することができます。
シェアードサービスのメリット2:クオリティの高い業務
シェアードサービスのメリットの二つ目は、提供されるサービス業務のクオリティ向上です。
参加企業すべてのサービス業務を標準化するために、これまでのサービスはすべて見直されて、最新のニーズに合った合理的なサービスに作り変えられます。
また、シェアードサービスを提供する側の組織も、複数企業のサービスを請け負って仕事が集中することにより、案件ごとの経験が増え、個々の業務の品質が向上していきます。
シェアードサービスのメリット3:デリバリー
シェアードサービスのメリットの三つ目はサービスのデリバリー、つまり提供までの納期が短縮できることです。
シェアードサービスを提供する側は、複数企業から依頼が来ても、すべて同じ手順で対応すればよく、個々の案件ごとに検討する必要がなくなります。
その結果、サービス業務のプロによる標準作業が行われることによって、納期のばらつきがなくなり、納期が順守されるようになります。
シェアードサービスのデメリット
シェアードサービスのデメリットは、実現するために参加する各社に意識改革も含めたかなりの負担を強いることになる点です。
グループ企業であっても、業務のやり方には多くの細かい違いがあり、それを標準化して実装する時にかなりの工数がかかります。
標準化した作業はこれまでの作業と少しずつ違いますので、受け入れるのに抵抗があり、サービスを受ける側の意識改革も必要になり、かなりの時間がかかります。
シェアードサービス導入おすすめ職種
シェアードサービスは企業のコア・コンピテンスと関係のない、バックドア業務や総務、経理などの本社機能を複数の企業で共有する考え方です。
上記以外にも、ITインフラ管理などのバックボーンの維持管理、給与計算、採用や研修支援などの人事部門の機能も、シェアードサービスに変えることで効果があります。
ここでは、シェアードサービスを導入して特に効果が高い業務をご紹介します。
財務経理
財務管理は、必要なアウトプットが法律で定められており、どのような業態でも同じような業務と手順での運輸になりますので、シェアードサービスの導入に向いています。
売掛金・買掛金の管理や経費精算、決算業務などの経理業務は複数企業間で手順を統一しても、問題は起きにくいです。
財務コンサルティングサービスは、各企業が自社人材で行うより、ノウハウのあるプロにまとめて任せた方が適切な支援を得ることができます。
人事総務
人事総務の業務は、企業ごとに独自の文化があり、シェアードサービスの導入にはかなりの困難が伴いますが、採用した時の効果は大きくなります。
庶務業務や労務管理のような業務をシェアードサービスで運用するためには、決定した業務ルール、手順を各社有数ダウンで車内に展開し、導入を進める必要がありますが、現場の声を無視すると失敗してしまう場合もあるので、注意が必要です。
情報システム
情報システムのインフラの運用・管理は行うべきことが決まっているので、シェアードサービスの導入に向いています。
参加しようとしている各社ですり合わせが難しいサービスがあった場合は、サーバー、ネットワーク、ハードウェア・ソフトウェアのライフサイクル管理、システムの監視・運用などの個別のサービスをどこまでシェアードサービスに移行するかを分けることができるので、すべてを移行しなくてもメリットを得ることができます。
物流
物流機能は、同じ会社でも事業部ごとに物流機能を持っていたりするので、複数の会社でシェアードサービス化すれば大きな効果が望めます。
複数社が同じ物流を利用することで、トラックごとの積載量が増え、物流効率が向上します。
また物流センターや車両などの固定コスト要因を複数社分でまとめて減らすことができるので、ビジネス環境の変化に追随しやすくなります。
シェアードサービス導入企業事例
シェアードサービスの考え方はかなり古くからあり、既に多くの企業グループで実際に採用され、大きな効果が上げられています
シェアードサービスはBPOと考え方は似ており、それぞれの企業において最適な方法を選ぶことになります。
ある程度大きな企業グループを持ち、グループ内の企業が歩み寄れる環境であれば、シェアードサービスは有効です。
ここでは、実際に導入して成果を上げている企業の実例をご紹介します。
P&G
世界180カ国で事業を展開しているP&Gは、90年代からシェアードサービスを導入して効果をあげています。
P&Gではシェアードサービスを一気に導入するのではなく、3段階に分けて検証しながら導入することでリスクを減らし、導入に成功しました。
業務をプロフィットセンターとコストセンターに明確に分け、コストセンター業務はでき得る限りシェアードサービス化し、現在は170以上のサービスが提供されています。
LEXEIL
トステム、INAX、新日軽、東洋エクステリアの4社が統合して誕生したLIXILは、105社のグループ会社で運用する統合会計システムをシェアードサービスで実現しました。
企業統合によるシナジー効果を最大限に活かすため、これまでは各社の基幹システムに組み込まれていた共通化可能な会計システムを切り出して対応することで、早期のシェアードサービス導入を実現しました。
大和ハウス
不動産業界大手の大和ハウス工業株式会社では、80以上の事業所の経理業務をシェアードサービスにより共通化し、これまで各事業所が個別に行っていた請求業務などを一元化して行うようになりました
これまで各事業所で自事業所のデータ入力や請求書などの印刷を行っていましたが、それを一元化することで付加価値の低い事務作業の大幅な低減に成功しました。
これにより本来業務へ回せる工数が増え、品質向上につながっています。
NECグループ
NECグループでは、出張者の申請・精算業務にシェアードサービスを適用することでコスト削減だけでなく、手戻り減少などの業務品質も向上しています。
出張時における手配担当者の作業だけでも、月あたり140時間ほどを削減でき、事務処理工数全体で30%の削減が達成され、出張者側の工数も考えると、効果はさらに大きくなります。
今後はe-文書法に対応することでさらなるスピードアップとペーパーレス化を見込んでいます。
オリックス生命
オリックス生命では、2ヶ所で別々に稼働していた基幹システムを、シェアードサービスを導入することで1ケ所に集約しました。
それまでは契約関連業務と保険契約管理システムが運用もロケーションも別々だったものを、契約データ件数の急激な増加とデータの一元管理による効率化のために見直しました。
この刷新により、コンピューターリソースの有効活用、データの一元管理、使いやすさの向上などのメリットが得られています。
日立システムズ
日立システムズでは、出張時の旅費・経費精算をシェアードサービスで実現し、出張手配や旅費精算に関わる工数を削減しました。
出張時の事務処理は、実際に出張にかかる費用に対して非常にコストがかかります。
出張申請から出張手配、経路検索、旅費精算など、ステップごとに煩雑な工数が発生するので、この部分をシェアードサービスにすることで約30%のコスト削減を目指しています。
NTT
NTTグループでは、10万人を超える利用者のために経理システムをシェアードサービス化し、事務工数の大幅な削減とシステム開発コストの削減に成功しています。
グループ各社は共通のポータルを介してシームレスでセキュアなサインオン環境で経理ERPシステムにアクセスでき、共通の操作性で作業することができます。
また、データチェックとレポーティングが共通になり、会社ごとの不整合もなくなりました。
サッポロホールディングス株式会社
サッポロホールディングス株式会社では、ビジネスサポート統括部を設置し、総務、人事、経理などの機能をシェアードサービスとしてグループ内に展開しています。
ビジネスサポート統括部はグループの本社機能の統括として、規模のメリットによる事務処理コスト削減を推進しています。
グループの新入社員を1年目はシェアードサービス会社の経理部門に配属(出向)させることで、シェアードサービスの浸透をはかっています。
シェアードサービスを理解し生産性の向上をあげよう
シェアードサービスは、企業グループにとってはシナジー効果による共通業務のコスト削減効果が望めますが、導入にあたっては各グループ会社ごとの差分の調整などが大きな障壁となります。
企業文化や業務のやり方の差は企業に根付いているだけに、シェアードサービスの導入は有数から現場までを巻き込まないと難しいです。
シェアードサービスのメリットとデメリットを正しく理解して、自社に合った導入の仕方を考えましょう。