アサーションとは?
監査などの現場でよく使われるアサーションとはコミュニケーションスキルのひとつで、自己表現として自分の意見や要求を表明する権利の主張をすることです。
トレーニングを通じで互いを尊重しながら率直な自己表現をするアサーションを学ぶことができます。相手のとの相互的で対等な立場を維持していくコミュニケーション方法です。
アサーションは50年代頃のアメリカの心理療法から生まれ、80年代に日本に紹介された言葉です。
監査におけるアサーションの重要性
監査におけるアサーションの重要性はリスク回避です。
監査とは作成された財務情報作成の各項目と構成要素となる取引や会計事象の正しさを監査要点として確かめる仕事です。監査要点は企業の特色に合わせて監査人の判断により設定されます。
財務報告における虚偽表示リスクを避けるにはアサーションがポイントとなります。経営者がアサーションをしっかりと持ち合わせていることで監査が公正なものとして執り行われるからです。
経営者の主張
アサーションを直訳すると主張です。この主張は経営者が行う主張です。
経営者の主張を検証するのが監査です。なぜなら監査要点となる財務情報は経営者の主張だからです。たとえ経理担当者が財務諸表を作成したとしても、そこには経営者の主張であるアサーションが反映されています。
財務諸表は経営者の意見といわれることもあります。財務諸表には「会計上の見積り」と「会計方針の判断」という不確定な項目があるからです。
正しい財務情報作成の必要条件
正しい財務情報作成の必要条件は、実在性または発生・網羅性・権利と義務・評価または配分・表示と開示の5つです。
この5つの条件は財務情報を作成するための根拠となるものです。この5つの根拠が経営者の主張でありアサーションと呼ばれるものです。主張しようとする対象そのものである作成された財務諸表を経営者の主張と呼ぶケースもあります。
アサーションは経営者の弁明などとも訳されます。
監査におけるアサーションの要素6つ
米国監査基準書のアサーションの条件は5つですが、日本公認会計士協会が規定している監査におけるアサーションの要素は6つあり、実在性・網羅性・権利と義務の帰属・評価の妥当性・期間配分の適切性・表示の妥当性です。
米国監査基準書のアサーションと表現に若干の違いがありますが内容は一緒です。これらの要素の詳しい内容をひとつひとつ知ることで、正しいアサーションについて学んでいきましょう。
監査におけるアサーションの要素1:実在性
アサーションの実在性の定義とは「資産および負債が実際に存在し、取引や会計事象が実際に発生していること」です。
財務諸表に記載されているアサーションが実際に存在しているということが大切です。財務諸表で売上高がいくらいくらと開示されていた場合、その会社が本当にそれだけの売上高を有している必要があります。
架空取引や架空売上がない状態であることが、監査におけるアサーションの第一要素です。
監査におけるアサーションの要素2:網羅性
アサーションの網羅性とは「計上すべき資産・負債・取引・会計事象などをすべて記録していること」です。
監査において財務諸表に実際に発生した取引がすべて記帳されていなければアサーションではありません。財務情報作成時に借入金がいくらいくらと開示されていた場合は、その会社にその金額以上の借入金があってはいけないということです。
隠し負債などの隠ぺい工作がないことが監査におけるアサーションの条件です。
監査におけるアサーションの要素3:権利と義務の帰属
権利と義務の帰属とは「計上されている資産に対する権利および負債に関する義務が会社に帰属している」ということです。
資産として財務情報に計上されたものは所有権・使用権などがすべてその企業に存在していなくはいけません。また、それらの資産は利用されることによって役務を提供していることが前提です。
負債として財務諸表に計上されたものは、対価の支払いなどの義務を将来にわたって負っていることが条件とされています。
監査におけるアサーションの要素4:評価の妥当性
評価の妥当性とは「資産および負債を適切な価格で計上していること」です。
売掛金の評価など、将来の対価と負担のそれぞれが見合った金額が計上されていることが監査におけるアサーションです。資産および負債を誤魔化さずに妥当な評価でアサーションして監査に反映されなければいけません。
例として市場性のある有価証券に対しては時価基準による評価を行ってから計上するなど、監査におけるアサーション的な対応が必要です。
監査におけるアサーションの要素5:期間配分の適切性
期間配分の適切性とは「取引や会計事象を適切な金額で記録し、収益および費用を適切な期間に配分している」という意味です。
会計期間内の取引だけが計上されていて、会計期間外の取引がまったく計上されていないことが監査におけるアサーションの原則です。
例として、建物などの固定資産は減価償却された収得原価で計上します。減価償却は取得した金額を期間費用として耐用年数に応じた適切な期間按分がされている必要があります。
監査におけるアサーションの要素6:表示の妥当性
財務諸表が適切に表示していることを表す表示の妥当性とは「財務諸表において項目が適切に分類され・表記され・公表されていることを示す言葉です。
代表例として、流動負債に分類された借入金は一年以内に決済されることなどが挙げられます。
これらの監査におけるアサーションの6つの要素は、財務諸表の表示方法が適切かどうかを判断する際に遵守しなければいけない判断基準の大切な原則です。しっかりと覚えておきましょう。
監査におけるアサーションの具体例9つ
監査におけるアサーションの具体例9つをご紹介していきます。
監査におけるアサーションを実際に起こりうるわかりやすい具体例を挙げてご説明させていただきます。より詳しくアサーションについて理解できるはずです。
監査におけるアサーションの具体例1:財務諸表
財務諸表は経営者の主張すなわちアサーションです。
財務情報の報告書である諸表にある現金預金や売上の数値が持つ意味を明らかにしていくことが監査です。財務諸表は会社の経営方針が如実に表れる業務の顔であり、経営者の会計上の主張が詰まったアサーションです。
財務諸表のアサーションを識別して監査手続きによってそれを裏付け、当該アサーションについての信念を形成することを目的に監査が行われています。
監査におけるアサーションの具体例2:資産項目
資産項目とは企業が持っている財産のことで、具体的には現金・売掛金・物的資産などがあります。
現金には金銭だけではなく為替や小切手・公社債なども含まれます。売掛金とは取引先との未収金額のことで、受取手形も資産項目に含まれます。物的資産には建物やそれに付随した設備や装置・車両・土地なども含まれます。
監査におけるアサーションの具体例3:負債項目
負債項目は会社が負っている債務のことで具体的には、借入金や買掛金のことです。
借入金とは銀行などから借り入れた借金のことです。買掛金とは仕入れなどで購入した物品に対して発生している未払い金です。
監査におけるアサーションの具体例4:収益項目
収益項目とは売上などの収入のことで、具体的には企業が商品を販売して現金や売掛金が入り資産が増加するときの要因を指します。
金融機関からの借り入れ金や社債発行などの資金調達における資本取引は、収益項目には含まれません。
監査におけるアサーションの具体例5:費用項目
収益を得るために必要なお金のことを費用項目といい、具体的には土地代や原材料費などのことです。
生産や取引などの経済活動の中で必要なもののために支払う金銭を費用と呼びます。人件費や地代家賃なども費用項目に含まれます。
監査におけるアサーションの具体例6:網羅性
網羅性の具体例として、取り引きが漏れなく記載されていることを保証するために売上の請求書は当日中に発行しているなどの行為が挙げられます。
監査におけるアサーションの要素である網羅性は、すべての取引が重複や漏れがなく残高を更新しながら正確に記録されていることが重要です。
監査におけるアサーションの具体例7:実在性
実在性の具体例としては、貸借対照表に計上されている製品が販売可能状態で倉庫に保管されて存在・実在されていることが挙げられます。
また、財務諸表にある売上計上が実際に行われた取引であるかなどの例も挙げられます。
監査におけるアサーションの具体例8:正確性・評価
監査におけるアサーションの正確性・評価として、企業倒産により将来の回収額が帳簿計上額よりも少なくなると見込まれる場合は売掛金の評価を下げなければいけないなどの具体例が挙げられます。
また、社会状況が目まぐるしく変わる昨今では工場の生産率などを下げる必要性が考えられます。そのようなときに財務諸表の固定資産をアサーションしてきちんと減額させることが大切です。在庫商品の時事評価もこれにあたります。
監査におけるアサーションの具体例9:期間帰属・権利義務
期間帰属・権利義務の具体例として、リース資産として計上された額は当該資産に対する権利の対価であり買掛金として計上された金額は債務としての義務であると、権利義務の帰属を明確にすることです。
具体例として登記が行われていない土地を財務諸表に資産計上している場合は、監査におけるアサーションの期間帰属・権利義務が確保されていないといえます。
監査におけるアサーション・内部統制のために必要なもの3つ
監査におけるアサーション・内部統制のために必要なもの3つをご紹介していきます。
アサーションによる内部統制は、リスクを一定水準に抑えられるため不正行為の防止策として有効です。そのため内部統制報告制度における経営者にとって、アサーションは適切な財務諸表を作成するための大切な要素です。
監査人は内部統制が適切に運行されているかどうかを、アサーションを監査要点としながら検討していくからです。
監査におけるアサーション・内部統制のために必要なもの1:業務記述書
業務記述書とは財務諸表に係る業務を文書で記述したものです。業務記述書には取引開始の時点から総勘定元帳への記帳・報告などの一連の流れが記述されています。
業務記述書は監査におけるアサーションのための内部統制に有効な書類です。組織で遂行しているすべての業務がどのような流れで発生して記録されたのかを監査人が理解する手助けをしてくれます。
業務記述書の内容を業務フロー図に書き込むことで省略することも可能です。
監査におけるアサーション・内部統制のために必要なもの2:業務フロー図
業務フロー図 (ワークフロー) は、業務内容・判断・処理の方法が視覚的に表現された図のことです。
業務を見える化するために業務フロー図がよく使われます。従業員がそれぞれの役割や自分の仕事の順序や位置関係を理解するために最適な方法が業務フロー図です。異なる部署や職種・立場の人でも業務フロー図があれば相手の業務内容を簡潔に把握することが可能です。
監査におけるアサーションの内部統制に業務フローは必須です。
監査におけるアサーション・内部統制のために必要なもの3:RCM
内部統制に必要なRCM(リスク・コントロール・マトリクス)は、リスクを低減させてコントール(統制)するための対応表のことです。
RCMには特に決まりはありません。自社のアサーションに合う内容で作成されています。
RCMの内容例としては、業務の内容・業務に内在するリスクの内容・リスクに対応するコントロール(統制)の内容・コントロールが整備や運用状況を評価するために実施する手続きなどです。
監査のアサーションの意味を正しく理解し業務を適正に進めよう
アサーションは経営者の主張や財務諸表という意味がある、監査における重要な地位を占める言葉です。
アサーションにより監査のリスク回避と公平性が守られています。これを機会に監査のアサーションの意味を正しく理解して業務を適正に進める努力と工夫を怠らないようにしていきましょう。