スポーツナショナリズムとは
ナショナリズムとは、日本語でいうならば「国家主義」「国民主義」「国粋主義」「民族主義」などと訳されます。「ナショナリズム」は、愛国心というよりも激しい感情を伴い、もっと複雑な意味合いを含んでいます。
和訳にもあるように「国粋主義」「民族主義」という極端な感情の方がしっくりくるといえるでしょう。スポーツナショナリズムとは、スポーツを通じて沸き起こるナショナリズムの感情を意味しています。
愛国心とスポーツ
サッカーや野球の日本代表チームが国際大会で活躍すると、「やっぱり日本はすごいよね」とご満悦になったり、逆にふがいない試合をすると、「だから日本はバカにされるんだよ」と憤ったりする感情こそが、スポーツナショナリズムの一端であり、スポーツを通じた愛国心でもあります。
本来は、スポーツと愛国心は切り離して楽しむものであり、一部のスポーツ選手が出した結果に日本国民すべてが一喜一憂するのもおかしな話です。
国家に利用されるスポーツ
スポーツの勝ち負けには、多くの人が共感しやすく、そこに「国」という印をつけることで、「国民意識」というものにまとめることも容易にできます。世界の歴史を見ると、スポーツの世界が国家の政策に利用されたことも少なくありません。
スポーツが国に利用された過去の例には、悪用されたケースも、平和利用のケースもあります。知らずにナショナリズムに巻き込まれることのないよう、過去の事例を見ておきましょう。
スポーツナショナリズムの例7つ
スポーツはナショナリズムと切り離して考えるべきとされながらも、注目度の高さや人々の高揚心を煽りやすいことから、しばしば両者は結び付けられてきました。
多くの国々が参加するスポーツイベントは、規模や、競技レベルの高さから注目を集めます。また、開催国は国をあげて各競技会場となるインフラ整備に取り組み、国力の見せ所ともなります。
ここでは、過去のスポーツナショナリズムの例を7つご紹介します。
スポーツナショナリズムの例1:「ナチ・オリンピック」
スポーツナショナリズムの最悪の見本とされているのが、1936年にナチス・ドイツにより開催された「ナチ・オリンピック」です。ヒトラーは、ベルリンでの開催が決まっていたオリンピックを徹底的に国威発揚、アーリア民族優勢を示す場として利用しました。
開会宣言中には観客がナチ式の敬礼が行われ、異様な興奮が沸き起こりました。オリンピックの成功で、ドイツは自信を得て国力を高め、その後、軍事力を増強していきました。
スポーツナショナリズムの例2:モントリオール五輪
1976年のモントリオールオリンピックでは、ニュージーランドのラグビーチームが、南アフリカに遠征したことに対するペナルティを受けなかったことに抗議して、アフリカ20数カ国がボイコットしました。
当時、南アフリカは「アパルトヘイト(人種差別)政策」を世界から非難されていました。中国も台湾からの選手出場を理由に、大会ボイコットをしています。スポーツナショナリズムを考えさせられる事例となる大会です。
スポーツナショナリズムの例3:日本と韓国
近隣国である日本と韓国では、相手国を比較してナショナリズムを煽るという行為が行われがちです。特に韓国では1980年代以降、韓民族優越主義が台頭しており、スポーツ選手が公の席で日本人をサル呼ばわりして問題になったこともあります。
韓民族優越主義はまさにナショナリズムであり、歴史問題に留まらず、経済やスポーツ、文化などあらゆる面で日本と比べたがり、勝手にライバル扱いして韓国の民族主義を煽っています。
スポーツナショナリズムの例4:東西冷戦
1952年ヘルシンキオリンピックでソ連がオリンピックの場に戻って以来、オリンピックは以降40年弱に渡り、東西冷戦という政治の影響を強く受けていました。
オリンピックは1国のナショナリズムの影響を受けるだけでなく、東(社会主義)と西(資本主義)というグループの対立も強くみられました。
東側陣営では、「実質はプロでありながらアマチュア扱いされたスポーツ選手」を輩出し、国家的なドーピングも噂されていました。
スポーツナショナリズムの例5:2つの中国
1970年代までは、「2つの中国」をめぐって、中華人民共和国と台湾の扱いでもめることがしばしばありました。
特にオリンピックは、「国」としての参加となるため、台湾の参加を「国として認める」ことにつながり、国際オリンピック委員会(IOC)の悩みのタネとなっていました。
オリンピックでは「国」だけでなく「地域」参加も認めることで、オリンピックにおける「2つの中国」に関するトラブルは沈静化しています。
スポーツナショナリズムの例6:サッカー戦争
国境を接し、多くの問題を抱えていたホンジュラスとエルサルバドルが、ワールドカップの南米予選で対戦し、勝敗はプレーオフに持ち越されました。
ホンジュラスの勝利に、悲観したエルサルバドル人女性が拳銃自殺し、ホンジュラスではエルサルバドル人が襲撃され、エルサルバドル政府は国家非常事態を宣言します。
後日、エルサルバドル軍が侵攻し、スポーツから本当の戦争に発展し、2000人以上の戦死者を出す結果になりました。
スポーツナショナリズムの例7:モスクワオリンピック
東西冷戦のとばっちりといえるのが、1980年のモスクワ五輪と、1984年のロサンゼルス五輪の、東西陣営の大量ボイコットです。
1国のナショナリズムというよりも、東と西に分かれた対決であり、日本オリンピック委員会は最後までボイコットに抵抗したと言われています。しかし、政府から補助金の打ち切りなどを提示され、ボイコットせざるを得なかったと伝えられています。
スポーツを平和利用した例4つ
スポーツは、政治利用としてナショナリズム高揚に使われることも多いものの、スポーツの理想形である「平和利用」されている事例もあります。ここでは、スポーツに取り組んだり、観戦したりするのが楽しくなる、スポーツの平和利用事例を4つご紹介します。
スポーツを平和利用した例1:1995年ラグビーW杯
1995年に南アフリカで開催されたラグビーW杯は、スポーツナショナリズムを平和利用した代表的な一例です。当時の南アフリカの大統領は、初めての黒人大統領ネルソン・マンデラでした。
人種差別政策を話し合いで解決したマンデラ氏が、国民の多数を占める黒人と、少数派の白人との融和を図るために利用したのが、1995年のラグビーW杯です。白人のスポーツとして嫌うことなく、黒人にも広め、優勝まで勝ち取りました。
スポーツを平和利用した例2:1998年サッカーW杯
1998年にフランスで開催されたワールドカップでは、ナショナリズムを揶揄されるほどフランス国内の報道は過熱していました。フランスはサッカー強国ではありますが、ナショナリズムに後押しされたこともあり、開催国が優勝するに至りました。
フランスは、直前の1994年大会には、「パリの悲劇」と呼ばれる敗戦により、出場がかないませんでした。自国開催でナショナリズムを煽り、大会を成功に導いた例といえます。
スポーツを平和利用した例3:1964年東京オリンピック
1964年に東京で開催されたオリンピックは、「平和の祭典」を全面に押し出し、「戦災からの復興」「平和憲法を持つ日本」をアピールする機会となりました。
東京開催になるまで、オリンピックは欧米で開催されており、東京オリンピックがアジアで最初に開催されたオリンピックになりました。
こうした「初」を謳うことも含め、東京オリンピックに向けて国の雰囲気を盛り上げた結果、カラーテレビの普及などにもつながりました。
スポーツを平和利用した例4:2018年平昌オリンピック
まだ記憶に新しい2018年の平昌オリンピックでは、一部競技において朝鮮半島の南北合同チームが生まれました。長らく南北分断している朝鮮半島が、「コリア」という一つの地域として出場することで、朝鮮半島のナショナリズムは高揚する結果となりました。
対外的にも、オリンピックが「平和の祭典」であることを強くアピールでき、開催国の韓国としては、平和利用の成功事例として扱うことができるでしょう。
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ナショナリズムとビジネスの関係
スポーツがナショナリズムに利用される以上に、ビジネスの対立はナショナリズムにそのまま反映されます。各国の貿易摩擦は、経済的な理由が述べられますが、その影には「自社製品を」「自社労働者を」優先的に守りたいというナショナリズム的な考えが必ずあります。
ここでは、ナショナリズムとビジネスがどのように関連しているのか、ご紹介します。
外国製商品の排斥
「坊主にくけりゃ袈裟まで憎い」という言葉がありますが、ナショナリズムが高揚しすぎると、外国製商品の排斥運動が起こることもあります。
経済摩擦がきっかけで外国製商品の排斥につながることもありますが、ナショナリズム的に「自国より優れたものだから憎い」という理由の場合もあります。
外国製商品の排斥は、「不買運動」など一般国民が自発的に行うことも、「関税引き上げ」という政府主導で行われることもあります。
自国文化が侵食されることへの反発
他国の珍しい文化が入ってくると、当初は珍しさから多くの人にもてはやされますが、途中からは、その文化を楽しみ続ける人と、自国文化を守るために他国の文化を排斥しようと考える人に分かれます。
他国に進出するビジネスマンは、人々の中にあるナショナリズムを理解したうえで、「排斥」につながらないよう調整しながらビジネス展開していく必要があります。
政治利用
スポーツであってもビジネスであっても、ナショナリズムを高揚させることができれば、政治利用されてしまうことがつきものです。国内の政治がうまくいかず、国民の不満があらわになると、政治家はスポーツやビジネスの競争を利用し、国威高揚を図ろうとします。
政治家たちは、自国に目玉ビジネスがあれば、相手国との駆け引きの材料とするとともに、国民に向け、自国のナショナリズムを高揚させようと努めます。
スポーツナショナリズムはビジネスとも関係がある
スポーツを利用したナショナリズムも、ビジネスを利用したナショナリズムも、それぞれ独自に使われることもあれば、相互で関連をもって活用されることもあります。逆にナショナリズムをビジネス発展に活用することもあります。
ナショナリズムは「国粋主義」と訳すと、危険思想だと感じられますが、スポーツナショナリズムの平和利用のように、上手に使えば国の活性化へとつながることを期待できます。