社会保険の扶養とは?扶養といっても種類がある
「扶養」には大きく分けて2種類存在します。
・税法上の扶養
・社会保険の扶養
「税法上の扶養」に入ると、所得税や住民税といった「税金」の負担が軽減されます。一方「社会保険の扶養」は健康保険法で条件が定められており、社会保険の扶養家族の条件を満たしていれば、扶養家族分の健康保険料の支払いは不要になります。
税法上の扶養の条件
扶養控除を受けられる範囲は?
税法上の扶養の範囲(控除対象扶養親族となる人)は以下のとおりです。所得税法では配偶者控除と扶養控除はそれぞれ別々のものと考えられていますので、ここでの扶養家族に配偶者が含まれません。
・配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
税法上の扶養の親族の範囲は、6親等内の血族及び3親等内の姻族と幅広く認められる制度となっています。血族では父母はもとより、祖父母、総祖父母、兄弟、甥姪、叔父叔母、従妹なども対象になります。
姻族とは結婚によって生じる親族関係の事で、例えば夫あるいは妻の両親(いわゆる義父や義母にあたります)のことを言います。ちなみに義父や義母は姻族の1親等になります。姻族の場合は配偶者の父母、祖父母、叔父叔母、義理の兄弟とその子までが対象になります。
家族であっても社会保険の扶養にならないパターン
後期高齢者は社会保険の扶養にならない
家族であっても75歳以上の高齢者は、後期高齢者医療制度の被保険者になるため、社会保険の扶養の対象とはなりません。また、65歳以上75歳未満の方で、一定の障がいがあると認められた人も後期高齢者医療制度の被保険者になるので、社会保険の扶養の対象とはなりません。
「一定の障がい」とは?
ここでいう「一定の障がい」とは、次のとおりです。(市町村によって案件が違う場合があります。)
・両眼の視力の和が0.08以下
・両耳の聴力レベルが90デシベル以上
・平衡機能に著しい障害を有する
・咀嚼の機能を欠く
・音声または言語機能に著しい障害を有する
・両上肢の親指および人差し指または中指を欠く・機能に著しい障害を有する
・上肢の機能に著しい障害を有する
・上肢のすべての指を欠く・機能に著しい障害を有する
・両下肢のすべての指を欠く
・下肢の機能に著しい障害を有する
・下肢を足関節以上で欠く
・体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有する
・身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状があり、日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする
・精神の障害または、身体の機能の障害もしくは病状が重複し前各号と同程度以上と認められる
生計上の条件は?
また、税法上の扶養の条件として、「納税者と生計を一にしていること」という条件があります。「生計を一にしている」の意味ですが、必ずしも「同居」が絶対条件というわけではありません。
例えば、大学生の子供が一人暮らしをしている場合には、常に生活費や学資金の送金が行われていることを条件に扶養親族として認められます。
別居している、両親の場合も主となる生活費の仕送りをしている場合は扶養親族として認められます。両親に仕送りをして扶養しているというような場合、仕送りをしている事実を証明できるようにしておきましょう。確実なのは銀行振り込みによって仕送りをすることです。
両親の医療費については領収書を保存しておくことにより、「医療費控除」を受けることが仮装です。しかし、兄弟が別々に仕送りをしているという場合は、それぞれが親を扶養に入れるということはできません。
年収金額
所得が38万円以下が条件
税法上の扶養になるための年収金額の条件は1年間の所得が「38万円」以下です。この38万円は「基礎控除」と呼ばれる税法上の控除になり、課税対象になりません。給与収入がある場合は、給与所得控除の65万円が得られるので、税法上の扶養になる条件は年収金額が38万円+65万円=「103万」以下です。
こんなときはどうなる?税法上の扶養の条件
仮に配偶者がパート先で年末調整を受けていたとしても、年収金額が条件を満たすのであれば税法上の扶養に入ります。これは、子供がアルバイトで収入を得ている場合も同様です。
また失業保険を受給している期間ですが、失業保険は非課税になります。仮にその年の年収が給与所得100万円と失業保険60万円の場合は合計160万円を得ていますが、「基礎控除」の38万円と「給与所得控除」の65万円と非課税の60万円を引くと、160万円-(38万円+65万円+60万円)=0円以下になるので、税法上の扶養になります。
確定申告上の条件は?家業を手伝うと扶養の対象にならない?
また、税法上の扶養の条件として「青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと」というのがあります。
「青色申告者の事業専従者」とは確定申告で青色申告をしている人と共に事業をしていて給与(専従者給与)を得ている家族の事です。確定申告の際に「青色申告者の事業専従者」の申請をすることにより、一緒に生活をしている配偶者等への給与の支払いを、必要経費とすることが可能です。
「白色申告者の事業専従者」は確定申告の種類が違いだけで、意味としては「青色申告者の事業専従者」と同様です。
個人事業主の配偶者や子供が一緒に家業を行って、給与所得を得ている場合は「青色申告者の事業専従者」「白色申告者の事業専従者」としての申請をしている場合は、扶養控除の対象にはなりません。
社会保険の扶養の条件
年収金額・いわゆる130万の壁?
年収は130万円未満が条件!
社会保険の被扶養者として認定されるには「収入」に条件があります。同居している場合は年間収入が「130万円未満」であって、かつ被保険者の年間収入の「半分未満」の場合は、被扶養者に該当します。
この「130万円未満」という金額は、60歳以上または障害厚生年金に該当する障害がある人のは「180万円未満」と緩和された金額になります。また、仮に被保険者の年間収入の半分よりも収入が多くても、「130万円未満」で被保険者の収入を上回らない場合は、被扶養者になります。
同居していない場合は年間収入が130万円未満かつ被保険者から受け取っている援助(仕送りなど)の合計額より年間収入が少ないのが条件です。
社会保険の扶養条件の「年間収入」とは、被扶養者に認定を受けた日以降の年間見込収入金額を指します。給与所得の収入がある場合、月額108,333円以下が条件です。
雇用保険の基本手当(失業保険)をもらっている期間は?
雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)は、税法上の扶養の条件としては非課税だったため参入されませんでした。しかし、社会保険上は年間収入に算入されるので扶養に入るためには一定の条件を満たす必要があります。
失業保険を受け取っている間は、雇用保険などの受給では日額3,611円以下が条件となります。日額3,611円を超えて受給している場合は、受給期間は社会保険の扶養が受けられないので自分で社会保険料を支払う必要が出てきます。
失業保険と社会保険の扶養の考え方(年間収入見込)
社会保険の扶養条件は、認定を受けた日以降の年間収入見込で計算されるので失業保険の受給前の給与所得があっても算入されません。ですので、退職前に年収130万円以上の収入があっても失業保険の日額の条件を満たしていれば社会保険上の扶養に入ることが可能です。
また、失業保険は多くは3ヶ月の「給付制限期間」があり、すぐに失業給付を受けることはできません。この期間は収入の見込みがないとみなされるので、失業保険の日額が3,611円を超える見込みがあっても社会保険上の扶養に入ることができます。
仕送りのついての条件は?
仕送り方法や金額にも条件がある
家族が別居している場合、被保険者が継続的な仕送りでその家族の生活費を主として負担しているのが社会保険の扶養に入れる条件になります。また、仕送り方法にも条件があります。
仕送り方法の条件は銀行をはじめとする金融機関からの振込みとし、該当家族の口座へ毎月定期的・継続的に仕送りを行っている必要があります。金額については家族の収入よりも多い(かつ下限基準額以上の)金額の仕送りが必要です。
例えば、家族の年収が72万円未満の場合の仕送り下限基準額は1人あたり月額6万円になります。ただしこの条件を満たしても、扶養の事実が確認できないときは認定不可となる場合があるので注意が必要です。振込した際の書類を取っておくといった対策をとり、事実を証明できるようにしておきましょう。
別居であるが仕送りを証明するものが免除されるケース
別居であるが仕送りを証明するものが免除されるケースもあります。以下のケースのいづれかにあてはまると免除の条件になります。
・単身赴任・3ヵ月以上の長期出張による別居
・子供の進学による別居
・里帰り出産・介護による別居
・長期入院・病気療養による別居
・特例扱い施設入所による別居(以下に該当する施設)
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
・介護老人保健施設
・介護療養型医療施設
・身体(知的)障害者更正施設
扶養範囲・家族・子供・親
社会保険の扶養に入るのは一般的に被保険者の収入によって生活を行っている家族というのが条件になります。「家族」であれば誰でもいいというわけではありません。
配偶者(内縁関係であっても可)、子(養子でも可)、孫、弟、妹、父母や祖父母といった直系尊属は同居していても別居していても関係なく被扶養者となります。尊属とは、父母と同列か、父母よりも目上の血族をいいます。
兄、姉や、叔父・叔母といった3親等内の親族や内縁関係の配偶者の父母や子は同居していることを条件に被扶養者となります。「弟」と「妹」は別居していても被扶養者になりますが「兄」「姉」は同居していないと被扶養者になりません。
ただし、次に該当する場合は一時的な別居ですので、同居しているものと考えます。
・病気で入院している場合
・施設などに入所している場合
・転任に伴い新任地における住宅事情のため2~3ヶ月別居している場合
社会保険の扶養にする手続き
手続きはどこで行うの?
社会保険の扶養の手続きは扶養者(収入があるひと)の勤務先で行います。自営業などの方は、社会保険が国民年金や国民健康保険に代わるので、「扶養」という概念は存在しません。
必要書類
家族を社会保険の扶養に入れる際に全員が必要な書類は以下の書類です。
・健康保険被扶養者(異動)届
です。提出期限は事態発生後5日以内に行います。また、被扶養者の続柄や年齢といった条件により必要書類が増えていきます。
婚姻により扶養に入れる時
国民健康保険に加入していた時は脱退を忘れずに!
婚姻(結婚)により夫の扶養に入るときには、健康保険扶養者(異動)届に加えて、「国民年金第3号被保険者変更届」を提出します。国民年金は扶養に入ると、今まで第1号(国民保険)や第2号(厚生年金)だった年金が第3号になります。
婚姻の前に「国民健康保険」に加入していた場合には、脱退の手続きをする必要があります。国民健康保険の脱退手続きは各市区町村の役場で行います。国民健康保険の脱退手続きの際には以下のものが必要です。
・加入した社会保険の保険証または社会保険の資格取得証明書
・国民健康保険の保険証
・本人確認のできるもの(例:運転免許証)
社会保険の保険証は、手続き書類を会社に提出してからおよそ2週間後に届きます。会社により社会保険の手続き日に「資格取得証明書」を発行してくれます。国民健康保険の脱退手続きには「社会保険の保険証」か「資格取得証明書」のどちらかが必要になります。
年金の種類について
婚姻により扶養に入った20歳以上60歳未満の被扶養者は年金の「第3号被保険者」になります。各被保険者の違いは以下のとおりです。
・第1号被保険者
対象者は自営業者、個人事業主(フリーランス)や学生、フリーター、無職の人です。支払いが困難な場合は、免除や猶予といった措置を受けられます。また、在学中で支払いが難しい場合は、「学生納付特例制度」を利用することで猶予期間が受けられます。ただし学生でもアルバイトなどで一定以上の収入があると適用されませんので注意しましょう。
・第2号被保険者
会社に所属している人が対象になります。年金は会社からの給料から天引きされます。また、年金の半分を会社が支払ってくれます。
・第3号被保険者
第3号被保険者は20歳以上60歳未満で第2号被保険者の配偶者(年間収入が130万円未満)が対象になります。なお保険料の負担はありません。
被扶養者の退職に伴い扶養に入れる時
退職したことがわかる書類が必要
例えば、婚姻時は働いていた妻が妊娠をきっかけに退職した場合はこのケースになります。この場合は、健康保険扶養者(異動)届に加えて、「退職証明書」または「雇用保険被保険者離職票の写し」といった退職したことが分かる書類が必要になります。
「退職証明書」は退職した会社で発行してもらう書類で、会社によって様式が異なります。「雇用保険被保険者離職票」は、いわゆる「離職票」です。退職後に会社から多くは郵送で送られてきます。「雇用保険被保険者離職票」には「雇用保険被保険者離職票-1」と「雇用保険被保険者離職票-2」の2種類が存在します。
「雇用保険被保険者離職票」の種類について
「雇用保険被保険者離職票-1」は「資格喪失確認通知書(被保険者通知用)」とも呼ばれていて、退職した会社の情報や退職日といった情報が書かれています。「求職者給付等払渡希望金融機関指定届」と呼ばれる失業保険を受給するための口座を記入する書類が添付されています。
「雇用保険被保険者離職票-2」は退職前の会社から受け取っていた給与の情報が記載されています。この給与額から失業保険の金額を算定します。また、離職理由について記入する欄があり、この理由によって失業保険の給付を受けられる時期に違いがでてきます。
失業保険の給付を受ける際には、注意が必要!
退職後に失業保険の給付を受ける際には日額が3,611円を超えるとその期間は社会保険に加入できないので注意が必要です。
・失業保険の給付日額が3,611円を超える場合
失業保険の待機期間は社会保険の扶養に入ることが可能ですが、失業保険の給付が始まったら一旦社会保険の扶養から外れます。給付が終了したら、社会保険の扶養の手続きを進めましょう。
・失業保険の給付日額が3,611円以内の場合、あるいは3,611円を超える場合で給付が終了した場合
社会保険の扶養に入るには健康保険扶養者(異動)届に加えて、「雇用保険受給資格者証の写し」が必要になります。「雇用保険受給資格者証」は失業認定された際にハローワークからもらえる書類で給付が終了した際にはハンコが押され、失業保険の給付が終わったことの証明になります。
子供が生まれたとき
子供が生まれたら、出産した病院で1ヶ月検診を受けることになります。この1ヶ月検診までに健康保険の加入を済ませましょう。両親のどちらかの社会保険の扶養に入ることになりますが、所得の多い方の社会保険の扶養に入るのが一般的です。この時の必要書類は以下のとおりです。
・提出人の印鑑
・出生届出済証明が記入された母子手帳
・健康保険証
・出生届のコピー
提出先は健康保険や共済組合の場合は勤務先の窓口です。(国民健康保険の場合は住民票のある市区役所や町村役場)提出人は扶養に入れる側両親のどちらかになります。勤務先によっては必要書類が異なる場合があるので中が必要です。
社会保険の扶養から外れる損得
社会保険の扶養から外れるデメリット
妻の年収が「130万円以下」で夫が会社員であれば、妻は夫の社会保険の扶養になるので、自分の収入から年金保険料や健康保険料を支払う必要がありません。
しかし、妻が年収130万円を超えると、夫の社会保険の扶養から外れることになり、妻自身が年金保険料や健康保険料といった税金を支払う必要が出てきます。また妻が夫の扶養からはずれるので「配偶者控除」がうけられなくなります。結果夫が支払う税金が増えるため、結果的に夫の手取りの金額も減ります。
社会保険の扶養から外れることでメリットも!
年収が130万円を超えると、社会保険料の支払いといった税金が増えてしまいますが、マイナス面ばかりではありません。社会保険の扶養から外れることによりメリットもあります。
・年金額が増える
年金額は、国民年金に加えて厚生年金が上乗せされるので年金額が増えます。
・出産手当金が支給される
次に出産するときに産前産後で仕事を休んだ場合は出産手当金が支給されます。支給期間は「出産予定日前42日」+「出産予定日から遅れた出産日までの日数」+「産後56日」で、手当の3分の2相当の金額が支払われます。出産手当金は妻自身が社会保険に加入していないと支払われません。
・傷病手当金が支給される
妻が怪我や病気なので仕事を4日以上休むことになった場合は4日目から傷病手当金が支給されます。支払される額は手当の3分の2相当です。
社会保険の130万円の壁に交通費は含まれるか
社会保険の130万円の壁に交通費は含まれます。社会保険の扶養に入れるかどうかの給与の算定は交通費だけではなく「住宅手当」や「家族手当」も含んだ金額で行います。ただし、所得税の扶養を考える場合は交通費「非課税」になるので算定金額に含まれません。
年金受給者でも社会保険の扶養に入れるか
年金を受給していても社会保険の扶養に入ることは可能です。同居しているかどうかにより社会保険の扶養に入れる条件がかわります。
・同居している場合
同居している場合は、扶養される親族の年間の収入が「130万円未満」であることが条件です。ただし、60歳以上または障害厚生年金が受給できる人は180万円未満に緩和されます。また、扶養される人の収入は被保険者本人の年間収入の半分未満であることも条件になります。
・同居していない場合
同居していない場合は、収入の条件は同居している場合と同様です。また、扶養される人の収入金額が被保険者からの仕送り額よりも少ないことも条件になります。
失業保険を受給しながら扶養に入れるか
失業保険を受給しながらでも、扶養に入ることは可能です。ただし、失業保険の受給金額が日額3,611円を超えると社会保険の扶養には入れません。目安としては、年収160万円といわれています。
ただし、待機期間中は社会保険の扶養に入ることが可能です。ですので失業した時は、いったん社会保険の扶養に入り受給期間中は一時的に社会保険の扶養から外れることになります。
扶養を活用して節税しよう!
社会保険の扶養の条件と手続きを紹介しました。社会保険の扶養に入れることによって、扶養する側が社会保険料の支払いをしなくていいだけではなく、扶養する側も「配偶者控除」あるいは「扶養控除」が受けられるので、節税につながります。
別居している人でも要件を満たせば社会保険の扶養に入れることが可能なので、一度自分の扶養に入れられる人はいないかどうか見直してみましょう。