税務調査とはどのような調査なのか?
事業を営んでいる方であれば誰もが身構えそうになるものに税務調査があります。事業関係で税金といえば毎年春先の確定申告できちんと税務署に申告しているにもかかわらず、なぜこのような税務調査というものがあるのでしょうか。
まず、税務調査がどのようなものであるのかについて見ていきますと、これは毎年確定申告した内容を税金担当の部局(国税庁など)が確認した際に誤りがあった場合に、申告者に対し修正を求めるための調査のことを指します。
これは、申告者の申告内容と税務担当職員の確認との間で食い違いが発生した場合に、本来納められるべき税金の金額が足りていなかったということになりかねないためです。そこで、そのような間違いによる誤差を埋めるために、調査を行って誤りを正すのが税務調査の目的であるといえます。
対象となるのは確定申告
税務調査において対象となるのは各納税者が提出した確定申告の内容で誤りのあるものについてです。この確定申告の内容で誤りがある場合に税務調査が行われますが、もちろん内容に不備や誤りがなければ税務調査の対象にはなりません。
それでは、より具体的にはどのような確定申告の内容となると税務調査の対象になるのでしょうか。まず、売上そのものが好調であるにもかかわらず利益が少ないという場合や同じような仕事を続けている割に利益率に差がある場合、雑費が多い場合などのように見た目が非常に怪しいものが対象となります。
ちなみに誤りが確定した場合は、申告していた税金の不足分に加え、延滞税(いわゆる延滞金)を納付する義務が発生します。またその誤りの程度によってはペナルティとして過少申告加算税や無申告加算税も納付することとなります。
国税庁のどのような人が担当するのか?
税務調査を担当する役所は国税庁ですが、それでは国税庁のどのような人たちが調査を行うのでしょうか。
まず、調査対象を決定するのは国税庁の統括官と呼ばれる課長クラスの職員が行います。具体的には国税庁にある専用のデータベース(KSKシステム)に蓄積された所得税や法人税のデータなどに照らして怪しいと判断されるような事業者を見つけて調査対象とする方法です。
そして、その事業者に対しては直接税務署で申告し直させるか、それが難しい場合は電話などで修正させるという方法を取り、そのほかにも実際に事業者のもとに出向いて帳簿などを調べるという方法がとられます。
なお、実地で調査する場合には事前に連絡する場合がほとんどですが、場合によっては予告なしの調査もありますので注意が必要です。調査の際には国税調査官が出向き、身分証を提示したうえで調査を開始します。
ほとんどの場合で修正申告という結末に
さて、税務調査の中で誤りが発見され、それが納税者によって認められた場合は修正申告が出されます。修正申告は税務署が指摘した内容に対し、納税者自身が納得したうえで申告することです。税務調査が行われた際に誤りが見つかった場合は、ほとんどが納税者側から修正申告が出されるという形で終わります。
これには実は修正申告のほかに更生と呼ばれる処分があることが大きく関係しています。更生とは調査の中で明確に誤りがあったにもかかわらず納税者がそれを全く認めないことを理由に税務署が処分を下すことです。そして、更生では修正申告と異なり処分を受けた納税者側から不服申し立て(税務署や国税庁に対し審判を請求すること)をすることができます。
ただし、不服申し立てをされると国税庁にとっては過重な負担を強いられることとなります。そのようなことにならないように修正申告で終わらせるようにしていることが多いのはこのためです。
個人のところに税務調査が入る理由とは?
ここまで税務調査がどのようなものであるのかについて見てきました。税務調査の対象は事業者、つまり何らかの事業を運営している企業などのため、一見すると企業でなければ関係ないというようにも見えます。
しかし、実は事業をやっているものであれば企業などの法人だけでなく、個人事業主を含めて個人の場合でも税務調査の対象になる場合もあります。
相続税
まず、個人に対して税務調査が入る場合として考えられるのが相続税です。相続税とは遺産を相続した際に発生する税金のことですが、実は相続税関係で税務調査の対象になるのは4件に1件と高めです。そして、税務調査が入った結果、8割ほどの確率で追徴課税の対象になるとさえいわれています。
基本的に遺産相続が行われた場合はその額が大きくなることも少なくないため、相続税の税務調査の対象になりやすいといえます。相続した金額が高いほど税金の額も高くなるためという理由もありますが、相続が予備知識のないままに行われた結果、税務署への申告を忘れていたということで調査対象になった、ということもよくあります。
ちなみに相続税の申告は毎年行われる確定申告と異なり、一度だけしか行わなくてよいので、その分税務署の職員や国税調査官が目を光らせています。
贈与税
個人に対する税務調査で対象となる例には贈与税の申告漏れの場合も挙げられます。贈与税とは、ある個人が自分の親族(子供や孫など)の個人に1年間で贈った額が110万円を超える場合に発生する税金のことです。言い換えると、1年間に贈った額が110万円以内に収まる場合は贈与税は発生しません。
特に最近では終活の影響で相続税対策として個人が親族に対して生前贈与をする例が増えてきています。中には少しずつ(贈与税の対象にならない範囲で)財産を贈与するというやり方もあり、それであれば贈与税の税務調査の対象からは外されるでしょう。
相続税対策の少額ずつの生前贈与も含め、個人間での贈与は一見すると税務署にはあまり把握されにくいようにも見えます。しかし、2016年度から導入されたマイナンバー制度によってこれまでよりは個人間の贈与についても調査されやすくなってきているといえるでしょう。
副業
昨今では大企業でさえも安定した経営ができるかどうかが心配される時代で、国が副業を奨励するような時代にさえなってきています。そこで、以前に比べると本業のかたわら副業に取り組む人も増えてきています。しかし、副業をやっている人もまた状況によっては税務調査の対象となります。
副業は職業に関係なく個人なら誰でもできますが、一方でたとえ個人の副業でも、収入が20万円を超える場合は確定申告しないといけない対象となります。そうなると、仮にこの場合にきちんと申告していなかった場合は、たとえ企業の経営者や個人事業主ではなく会社員であったとしても税務調査の対象となる羽目になってしまいます。
もちろん、申告していなければ無申告ということで、その分の税金がかかるだけでなく無申告加算税や延滞税が発生します。
なお、個人で株などをやっていても税務署ではそれらの動きもきちんと把握していますので注意が必要です。
どのくらいの金額以上が対象になる?
ちなみに、個人で税務調査が入る場合、どのくらいの金額を稼いでいる人が対象となってくるのでしょうか。
おおよそのボーダーラインは個人事業主であれば年商500万円から1000万円以上を稼いでいる場合で、なおかつ申告漏れがある場合に税務調査の対象となってきます。これは、税務署が税務調査を行う際には基本的に大儲けをしている割にあまり税金を納めていないようなところを狙うためです。
ちなみに、このライン以下の年商の個人事業主については、たとえ調査を行って追徴課税を課したとしてもさほど税金が入ってこないため、あまり対象とすることはありません。
もし個人に税務調査が入ったら?
もしもある日、あなたのところに国税調査官がやってきて税務調査をするということになったとしたら驚きを隠せないという人がほとんどでしょう。
そこでここでは、突然個人に対して税務調査が入った場合の対処法をご紹介いたします。
時期として多いのは?
実は税務調査が行われる時期として最も多いのが、7月から11月にかけての時期です。というのは、7月は税務職員の移動が活発に行われる時期であるためです。
そして、この時期に新しい部署に赴任した税務職員が個人・法人に関係なく確定申告で不審な点が見られる者に対して税務調査を行う旨を、電話もしくは文書の発送という手段によって告知するというのが活発に行われます。ただし、状況によっては抜き打ちで行うこともあります。
個人向けの税務調査=不正があるという疑い、ではない
さて、実際に個人に対して税務調査が入ったとしても、それは不正を疑ってということではありません。調査官からすればあくまでも調査や確認というのが目的であるうえ、事前の情報は何もない状態で来ることも少なくありません。
そのため、あまり身構えることなく聞かれたことに対して正直に答えさえすれば大丈夫といえるでしょう。
ただし、だからといって、嘘をついてはいけません。後日に不正が明らかになった場合は厳しいペナルティを覚悟しなければいけなくなるでしょう。たとえ個人相手であっても調査官の調査能力はいかんなく発揮されるためです。
税務調査官には身構えなくてもよい
調査員の方は基本的に気さくな態度でいろいろと聞いてきます。中には雑談を交えながら質問するという、とても接しやすい方もいるほどです。
このように気さくな態度をとってくるのは、単に正直かつ素直に質問に対して答えてほしいと考えているからです。たしかに、あまりにも怖そうなイメージでいろいろと聞くと逆に委縮される恐れがあるというのは的を得ています。
そのため、あまり怖がったり、またはガチガチに緊張したりする必要はないといえるでしょう。個人相手であっても恫喝を加えるということはないのでご心配なく。
何らかの指摘を受けたときは?
もしも、調査中に何らかの不審な点が見つかり、指摘を受けたときはどのようにすればよいのでしょうか。答えは簡単で、そのまま素直に謝るなり、今後気を付ける旨を伝えたりするとよいでしょう。
個人事業主で特に調査が入りやすい職種とは?
実は個人事業主でも業種によって税務調査の対象となりやすいものがあります。具体例を挙げますと、風俗業やクラブ、アフィリエイトなどネット関係、建設業などです。
風俗業やクラブといった業種は個人が経営するものでも現金でのやり取りが多い業種であること、ネット関係は個人であっても経費がそれほどかからないこと、建設業などはいわゆる一人親方(個人で建設業を営む、いわば大工さん)が申告していない場合が多いことが理由として挙げられます。
税務調査が個人に入っても動揺せずに
できるならばなるべく入らないようにしたい個人向けの税務調査について、いろいろと見てきました。
税務調査は基本的には確定申告などで申告漏れや申告の内容の不備について調査するために行われるため、たとえ個人相手のものであったとしても、正直に聞かれたことに対して事情などを説明することが大切といえるでしょう。
もちろんのこと、調査官相手に事を荒立ててもメリットはありませんので、真摯な態度で対応することが大切です。一方で調査官も基本的にきちんと対応するうえ、気さくな方が多いのであまり身構えなくても大丈夫です。