【青色申告特別控除】控除を受ける条件・控除の金額・メリット

雑学

青色申告と青色申告特別控除とは何か

我が国の所得税は、納税者自身が所得税法に従って「所得金額」と「税額」を計算し納税するという「申告納税制度」を採っています。1年間に生じた「所得金額」を正しく計算し申告するためには、収入や経費に関する日々の取引の状況を記帳し、これに関連した書類を保存しておく必要があります。このためには、取引などをある程度正確に記録しなければならず、そのためには「単式帳簿」または「複式帳簿」という決まりごとに沿った「記帳」という作業が必要です。この負担に対する特典が「青色申告特別控除」であり、この特典を利用できる申告方式が「青色申告」です。この名称は、申告用の用紙の色から来ています。

青色申告選択のメリット

青色申告を利用すると、「青色申告特別控除」を含めて大きく分けて8つのメリットを享受できます。これらを3つのグループに分けて解説します。

もっとも大きな3つのメリット

1. 青色申告特別控除
青色申告を選んで単式簿記で取引を記録した場合は10万円、青色申告を選んで複式簿記で取引を記録し、損益計算書と貸借対照表を作成して決算書を作成すれば65万円を、課税所得から控除できます。

2. 赤字を繰り越せる
青色申告では、「今年の赤字を、来年以降3年間に繰り越せる」ことです。事業は毎年黒字とは限らず、黒字の大きな年に納税するのは当たり前なのですが黒字が小さく、納税したら生活できないような年もあるでしょう。そういう年に赤字を繰り越せると税金を圧縮することができます。

3. 家族に給料が払える
本来、個人事業者の場合、同居の家族への給与の支払の経費計上は認められていません。しかし青色申告して、あらかじめ「青色事業専従者給与に関する届出書」という書類を税務署に提出しておくと、「生計が同じ家族にも給料を払い、経費計上する」ことができます。

4つの税制優遇処置

2つの固定資産減価償却のメリットと、2つの税額控除のメリットがあります。これらによって、場合によっては青色申告特別控除よりも大きなメリットが得られます。固定資産減価償却のメリットとは、減価償却を促進して早く償却すると、その分経費が増えて、課税所得が減るので、税額が減る、という効果があります。

4. 中小企業等投資促進税制
青色申告をした個人事業主には、ある一定の条件を満たした一定の機械装置・工具・器具備品・ソフトウェア・輸送用車両を購入した場合、取得価額の30 %を特別償却するか、取得価額の7 %の税金を控除できます。

5. 少額減価償却資産の特例
30万円未満の固定資産を購入した場合、その価額を単年度で経費計上できます。

6. 試験研究費の税額控除特例
試験研究をした場合は試験研究費の総額の10%の税金を控除でき、試験研究費が増加した場合は、増加した試験研究費に一定の割合をかけた金額の税金を控除できます。

7. 雇用促進税制(雇用者の数が増加した場合の税額控除)
常時使用する従業員の数が1,000人以下の中小企業者の個人事業主は、雇用者の数が2人以上増え、かつ一定の条件を満たす場合には、増加雇用者数×20万円の税金を控除できます。

期末債権の一部を貸倒引当金に設定できる

貸倒引当金とは、回収不能債権を損金に設定することなのですが、回収不能かどうかにかかわらず、青色申告者は、その一部を貸倒引当金に設定してもよい、ということになります。

8. 一括評価による貸倒引当金の特例
青色申告をしている個人事業主の方は、年末に残っている売掛金、未収金や貸付金などの債権の5.5%〔金融業では3.3%〕を貸倒引当金に繰り入れて、税額を削減することができます(翌年には繰り戻す必要があります)。

65万円の青色申告特別控除を受けるための要件

この要件は、次の通りです。これらを満たさない青色申告の場合は、控除額が10万円になります。
(1) 不動産所得又は事業所得が生じる事業を営んでいること。
(2) これらの所得に係る取引を「正規の簿記の原則」(つまり原則として複式簿記)により記帳していること。
(3) (2)の記帳に基づいて作成した貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、法定申告期限内に税務署に提出すること。

ただし、複式簿記ではなく単式簿記の場合でも、補助書類を完備させて決算書を提出し、65万円の特別控除を受けることはできます。
また、「正規の簿記の原則」は主として「発生主義」という原則によった複式簿記によるものですが、そうではない「現金主義」を選択している場合は、65万円の特別控除を受けることはできず、控除額は10万円になります。青色申告には一般用、農業所得用、不動産所得用、現金主義用の4つの書式がありますが、65万円控除は「現金主義用以外」の様式を使わなければならないということです。

発生主義と現金主義の違い

発生主義とは、「収入や支出の事実が確定した日付」で計上する考え方であり、現金主義とは「現金の収入や支出の日付」で記帳する考え方です。例えば、1,000円の消耗品をツケで購入し月末にまとめて支払う場合を考えてみましょう。
12月1日に消耗品を購入し、12月29日に代金を支払うということです。この場合、発生主義であれば、取引が確定した12月1日の日付で消耗品購入と買掛金の発生を記帳し、12月29日に買掛金の消滅と現預金での支払いを記帳します。発生主義であれば、合計2回の記帳が必要です。
一方、これを現金主義で記帳する場合には、12月29日に代金を支払った時点だけで消耗品を現預金で購入した取引を記帳します。買掛金の記帳をしないということです。現金主義では同様に売掛金の基調も省略できます。すると現金主義では、記帳は簡単ですが、買掛金や売掛金、あるいは受注や納品など、現金授受以外の取引が記帳されず、内容の精度が期待できないということになります。

特別控除は国税と国民健康保険に共通

各種の税は、売上から経費を差し引いた事業所得から控除額を差し引いた「課税所得」に所得税率をかけて計算します。税によってはこの他に均等割の税金があったり、税額を減らす「税額控除」のある場合があります。この特別控除は国税と国民健康保険に共通しています。
所得税の場合は、控除額にはまず「基礎控除」(38万円)があり、これと「特別控除」を差し引いた「課税所得」に所得税率をかけた金額から、課税所得に応じた税額控除を差し引いて所得税が得られます。
住民税の場合は、控除額にはまず「基礎控除」(33万円)があり、これに加えて「特別控除」を差し引いた「課税所得」に住民税率をかけ、均等割(4000円)を加えて住民税が得られます。
国民健康保険の場合は、控除額にはまず「基礎控除」(33万円)があり、これに加えて「特別控除」を差し引いた「課税所得」に住民税率をかけ、均等割(約5万円と仮定、実際には世帯ごとにかなり複雑)を加えて健康保険料が得られます。保険料は都道府県によって少しずつ異なるので確認してください。
個人事業主には個人事業税もありますが、これは地方税なので青色申告特別控除は関係せず、290万円の事業主控除だけがあります。

青色申告特別控除のメリット

次の表に、事業所得が150万円の場合と350万円の場合の、所得税、住民税、個人事業税、保険料の、白色申告と2種類の青色申告の場合の比較例を示します。

青色申告/複式簿記の場合の65万円の特別控除によるメリットは、課税所得が150万円の場合は16万円超(課税所得の約11%)、課税所得が350万円の場合で26万円超(課税所得の約7%)となります。これくらいないと、手間をかけたことが報われません。

申告書Bと所得税青色申告決算書における青色申告特別控除の記載

青色申告を行う際には、「申告書B」と「所得税青色申告決算書」が必要です。
申告書Aは、会社員やアルバイトの方など、所得が給与所得や公的年金その他の雑所得、配当所得、一時所得のみでありかつ「予定納税」のない方が、医療費控除や住宅ローン控除を受ける場合に利用します。予定納税とは、前年の所得税が15万円以上だった場合に納めることになる前払いの税金です。申告書Bは、事業所得や不動産所得がある方など、所得の種類にかかわらず誰でも使用できる、予定納税額の記入欄がある書式です。
「青色申告特別控除」は「申告書B」と「所得税青色申告決算書」の1頁目および1頁目に記載します。記載箇所を赤丸で囲っておきました。



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