株主総会の議事録の書き方
株主総会の議事録は、「会社法施行規則」において詳細に定められています。
そのため、商事法務が出版している「議事録作成マニュアル」などの専門的な本を購入したうえで議事録を作成し、念のために信託銀行の担当者や顧問弁護士に確認を依頼して問題がないとの回答を得たあと、製本するのが望ましいです。
これより、株主総会の議事録に記載するべき事項と、その書き方について説明します。
記載事項(日時および場所)
会社法施行規則72条3項により、株主総会が開催された日時と場所を記載することが義務付けられています。必ず記載しましょう。
記載事項(株主総会会場にいない役員や株主が出席した場合)
会場にいない役員や株主も出席株主として、カウントされます。この点の記載についても、会社法施行規則72条3項により記載が求められています。この規定は、テレビ会議システムなどを想定しているようです。
しかし、通常の株主総会に対しても適用されます。また、通常の株主総会においても、株主総会に欠席した株主が、書面やインターネット上において議決権を行使した議決権の数は、出席した株主の議決権数に参入され(会社法311条、312条)ますし、代理人によって議決権を行使することも可能です。そして、それらを議事録に記載する義務があります。それに、壇上にいる役員も自社株式を保有していますが、その場で議決権を行使することはできません。ですから、自社株式を保有している役員については、あらかじめ出席株主として計算されます。この点を留意しておきましょう。
記載事項(株主総会に出席した取締役や監査役の氏名)
株主総会議事録においては、出席した取締役、監査役、議長の氏名を記載します。
株主総会のアジェンダは以下のようになっています。
1.議長の開会宣言
2.役員などの出席状況
3.議決権個数の報告
4.監査役の報告
5.報告事項の報告
6.事前質問に対する一括回答
7.報告事項および一括回答に関する質疑応答
8.決議事項の上程と審議
9.決議事項に関する質疑応答
10.採決
11.議長の閉会宣言
まず、開会宣言については、実際の会議において開会宣言がないのは、会議体運営上、後日問題が発生しかねませんので議事録には明記しておく必要があります。そして、議決権個数や出席株主数を報告して、定足数を充たしていることを示し、この株主総会が成立していることを明白にする必要があります。
また、決議事項における採決においては、明確に「出席株主に賛否を問うた結果、賛成多数で可決された」とはっきり記載すべきです。明確に賛成多数で可決されたことを記載することによって、後日発生するかもしれない紛争を未然に防ぐことができます。なお、株主との質疑応答や、事前質問に対する一括回答については、議事録に記載するほどの経営上の重要な要素がないかぎり、議事録に記載する必要はありません。
細かな質問をすべて記載していると、かえって重要なことがわからなくなるため、重要な内容のみ記載するようにしましょう。
記載事項(議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名)
議事録作成の実務は一般の社員が行いますが、議事録作成の法的責任を負うのは取締役となります。ほとんどの会社では、株主総会の議長と、議事録作成者は代表取締役社長となるケースが多いでしょう。
記載事項(株主総会における監査役等の発言の記載)
実際においては、監査役が株主総会で発言をすることは稀にしかありません。しかし、実例としては監査役の辞任に関する意見というものがあります。
これは、任期途中で辞任した監査役が、辞任後に最初に招集された株主総会において、辞任した旨と任期途中で辞任した理由を述べています。また、取締役が株主総会に提出しようとする議案について調査し、法令または定款に違反し、著しく不当であると認めたときは、調査結果を報告する必要があります。
株主総会議事録テンプレートは以下のサイトを参考にすると良いでしょう。
議事録の閲覧権限とその行使
会社は、株主総会が終了した日から10年間、株主総会の議事録を本店に備え置かなければなりません(会社法318条)。そして、支店には議事録の写しを5年間備え置くことを義務付けています。そして、株主および会社の債権者には、株主総会の議事録を閲覧することと、謄写することを請求する権利を有しています。また、親会社の株主には、裁判所の許可を得て、子会社の株主総会議事録を閲覧および謄写の請求をすることができます。これらを請求できる時間帯は、会社の営業時間内とされています。会社によっては「閲覧・謄写請求書」なる書面を用意しており、これに請求者の住所・氏名や所有株式数、議事録の使用目的を記載してもらっています。
なお、会社側は無条件で株主総会議事録の閲覧や、謄写請求に応じているわけではありません。これについて社内規則を設けている会社は少ないですが、請求を断る会社が多いのが実情です。そして、株主や債権者側が議事録や計算書類の閲覧を断られたことを不満とし、訴訟を提起したことがありますが、裁判所の判断は株主や債権者側に対して厳しい内容となっています。具体的な判決内容としては「『貴社の株主総会議事録を閲覧したい』だけでは不十分であり、請求の理由を具体的に特定して記載する必要がある」というものです。
重要事項の決議における議事録の役割
株主総会において、取締役や監査役、会計監査人を選任したり、定款を変更して本社所在地を変更したり、事業内容を変更した場合には、法務局に登記申請をする必要があります。その登記申請のときに、株主総会での決議を証明する書類として、株主総会議事録が必要となります。なお多数の会社が、株主総会の議事録の原本を2通作成し、1通を登記申請用として用いています。しかし一部の会社では、議事録の原本は1通しか作成せず、登記手続きが終われば原本を還付してもらう手続きをしています。
また、株主総会の議事録は、訴訟を提起された場合には証拠書類となります。例えば、15%の株式を保有する大株主である創業者と、現経営陣が取締役の選任議案で対立した場合、票数が接戦となるケースもあります。その場合、敗北した側が、株主総会の決議無効を求めて訴訟を提起することも想定されますが、そのときは訴えられた側が議決権行使書に加えて、株主総会の議事録を作成しておけば、これらが裁判での証拠となります。
さらには、株主総会にて定款変更議案のなかで、取締役や監査役の役員報酬金額を改定し、金額を引き上げたり、金額を引き下げるケースもあります。もちろん、株主総会で決議された場合には、議事録にその旨記載されます。定款のなかでは、取締役だけでなく、社外取締役に限定した報酬金額を定めたり、監査役だけでなく社外監査役に限定して報酬金額を定めます。それに、年間報酬金額だけでなく、月額あたりの報酬金額も定めます。このため、役員報酬金額が改定された場合には、決算期の監査法人による会計監査において、株主総会の議事録を監査資料として提出するのが通例です。株主総会で決定する役員報酬額というのは、上限枠を設定するだけであって、実際のひとりひとりの役員報酬金額を決定するのは取締役会なのです。このため監査法人は、株主総会議事録で役員報酬金額の上限額をチェックし、さらに取締役会議事録や監査役会議事録でひとりひとりの役員報酬金額をチェックします。それぞれの監査役の報酬は監査役会で決定されます。また、取締役会において、ひとりひとりの取締役の報酬金額決定を社長に一任している場合は、経理部門や人事部門の資料において、実際のひとりひとりの役員報酬金額をチェックすることになります。