派遣社員と派遣会社について
派遣社員というのは雇用の契約を派遣会社と結んで、派遣会社と契約を交わしている派遣先の会社で働く就業形態の社員です。業務についての指示などは派遣先の会社から受けますが給料は契約している派遣会社から支払われます。
派遣社員に関係する法律として「労働者派遣法」がありますが、2015年9月に改正され、それまで一般派遣と特定派遣と別れていたものが、特定派遣が廃止されて一般派遣に統一されました。
現在、特定派遣の届出をしている派遣会社も2018年9月までの猶予期間がありますので、国などの統計データのほとんどが一般派遣と特別派遣を分けて調査しています。
一般派遣と特定派遣の違い
特定派遣というのは、「常用型派遣」と言われる形態のみの派遣になります。常用型派遣というのは、派遣元の会社に正社員や契約社員などの社員として雇用され、派遣先の会社で働く形態です。派遣先に派遣されていない時でも給料が支給され、ボーナスや昇給もたいていの場合はあるようです。
これに対し一般派遣というのは、「常用型派遣」だけではなく「登録型派遣」と言われる形態も含む派遣になります。登録型派遣というのは、派遣元の会社に社員として雇用されるのではなく、派遣先に派遣されている期間だけ契約を結ぶ有期雇用の形態になります。派遣先に派遣されて初めて雇用の契約が結ばれ、派遣先を紹介してもらえないと給料は支給されません。給料は時給制が一般的です。
労働者派遣法の改正で派遣会社はすべて許可制に
労働者派遣法の改正で特定派遣が無くなりますが、常用型派遣が無くなるわけではありません。常用型派遣のみを扱う特定派遣会社は届出だけで審査は特にありませんでしたが、法改正でこの特定派遣会社が廃止され一般派遣会社のみになったので、これからはすべての派遣会社が許可制になります。
審査は、会社の資産や面積などの他、キャリアアップのための教育訓練などについて厳しく行なわれますので、審査をクリアしたしっかりとした派遣会社のもとで働けるようになると言えるでしょう。
派遣社員の年収、平均は?
派遣社員の収入についての国の統計データで、年収のかたちで発表されているものはありません。また、一般派遣と特定派遣に分かれていたり、派遣会社への派遣料金のかたちで示されている場合があるので一概に年収を表わすことができません。
派遣会社のマージンや年間労働日数を考慮して年収を推計してみたいと思います。
派遣会社のマージンや年収の計算方法
厚生労働省が平成27年度の労働者派遣事業報告書の集計結果を発表しています。
様々な職種について、派遣会社への派遣料金と派遣労働者の賃金が示されていますので、その差から派遣会社のマージンを知ることができます。職種によって異なりますが、平均すると一般派遣で31.5%、特定派遣で36.0%というマージン率になっています。
参照先
この統計データでは派遣料金や賃金が1日当たりとなっていますので、年間労働日数で積算して年収を推計することにします。
年間労働日数の考え方はいろいろですが、土日祝日は完全休みで、それに加え、お盆・年末年始を加える、つまりカレンダー通りの休みとすると年間の休日は合計で120日前後になります。個人的な理由などでの休暇も含めて年間の休日を125日、つまり年間労働日数を240日として年収を計算してみようと思います。
派遣社員の年収、額面では
厚生労働省の平成27年度のデータですが、ちょうどこの年の9月に上述した労働派遣法が改正されたので、データが蓄積されている法改正前、4月から9月までのデータをみてみましょう。
職種によってかなり差があるのですのが、平均すると一般派遣労働者の1日当たりの賃金は11,617 円、昨年度より1.9%減少しています。これに対し特定派遣労働者の賃金は15,304円、昨年度からの減少率は0.7%となっています。
年収に換算すると、
一般派遣労働者 278.8万円
特定派遣労働者 367.3万円
となります。ずいぶん差が付きますね。
これは職種の違いによるところが大きいのですが後述の年収の高い、低いのところで説明したいと思います。ちなみにこれは額面で、税金や社会保険料などは引かれていないものです。
正規社員との比較
いわゆる正社員との年収の違いはどうでしょうか。
国税庁が平成27年度分の民間給与実態統計調査を発表しています。
それによると、正社員を示す正規社員の年収は485 万円で、非正規社員の年収は171 万円となっています。非正規社員にはパートタイムなどが含まれていますので低くなっていますが、派遣労働者の278.8万円、367.3万円などの年収と比べると正規社員は大きな年収になっていることが解ります。
年齢別の格差は?
年齢別の年収については、厚生労働省の平成28年賃金構造基本統計調査の雇用形態別に参考になるデータがあります。
派遣社員としてではなく、非正規社員のひとくくりになっているデータですが傾向がつかめるものと思います。非正規社員は派遣社員の他、契約社員や嘱託社員、アルバイト、パートタイムなどを含みます。1ヵ月の賃金で示されています。
参照先
20~24歳 18.2万円
25~29 20.0
30~34 21.0
35~39 21.4
40~44 21.1
45~49 20.8
50~54 21.0
55~59 21.1
60~64 23.4
65~69 21.6
となっていて、年齢別で大きな差はありません。平均で21.2万円、男性平均が23.5万円、女性平均が18.9万円、女性に多いパートタイムなど影響があるのかもしれませんが、男性のピークは60~64歳、女性のピークは35~39歳になっています。
正社員の平均が32.2万円なので、非正規社員とは11万円の差があります。
派遣社員の年収、手取りでは
今までの年収などの数値は額面のもので、税金や社会保険料などが引かれていないものです。
厚生労働省の平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査に社会保険への加入実態が発表されています。派遣社員の加入率は、雇用保険が83.8%、健康保険81.1%、厚生年金76.5%で正社員の加入率には及びませんが約80%になっています。それと所得税や住民税などの税金が引かれると、収入の手取り額は額面から15~20%引かれたものになるのが一般的と思われます。
派遣社員の年収が高い職種
厚生労働省の平成27年度労働者派遣事業報告書の集計結果から派遣社員で年収の高い職種を見てみましょう。有数10です。
職種 区分 日給 年収
セールスエンジニアの営業、金融商品の営業 特定派遣 19,967円 479万円
事業の実施体制の企画、立案 特定 19,914 478
ソフトウェア開発 特定 18,022 433
機械設計 特定 17,235 414
調査 特定 16,921 406
研究開発 特定 16,782 403
セールスエンジニアの営業、金融商品の営業 一般派遣 16,447 395
ソフトウェア開発 一般 15,964 383
事業の実施体制の企画、立案 一般 15,855 381
広告デザイン 特定 15,711 377
となっています。やはりスキルを必要とする職種が多いですね。
年収600万円以上の人
派遣社員で一番年収の高い職種、セールスエンジニアの営業などで479万円となっていますが、これは平均値なので当然それ以上の年収の人も多くいるわけです。これら高い年収の職種はいずれも専門的な能力、スキルが必要となる職種です。
求人サイトを見ても年収600万円以上のものは専門職で数多くあります。プログラマーやシステムエンジニア、薬剤師などの特殊な専門技術や資格が必要なものがほとんどです。
このような仕事ができる人は正社員としてよりも派遣で働いたほうが収入は高くなって、1000万円を超える例もあるようです。正社員と比べると不安定な雇用形態ですが、仮にその職場で失敗したとしても、その人が持っているスキルは年収600万円以上の価値があるということが認められているようなものなので、他の会社に移ってもその仕事について十分に活躍することができるのです。
高い技術や資格はなにかの時のつぶしが効く保険のようなもので、大切な重要なものなのです。
派遣社員の年収が低い職種
それでは、厚生労働省の平成27年度労働者派遣事業報告書の集計結果から派遣社員で年収の低い職種を見てみましょう。低いほうの順位10位までです。
職種 区分 日給 年収
建築物清掃 一般派遣 7,714 円 185万円
建築物清掃 特定 8,827 212
受付・案内 一般 9,085 218
駐車場管理等 一般 9,449 227
受付・案内 特定 9,595 230
添乗 一般 10,194 245
テレマーケティング 一般 10,235 246
ファイリング 一般 10,405 250
駐車場管理等 特定 10,486 252
アナウンサー 一般 10,685 256
となっています。単純労働のような職種が多いですね。
年収200万円以下の人
年収は高いほうが良いのかもしれませんが、配偶者控除の103万円という壁がある人など理由があって収入を抑えている人もいます。生活のための補助的な収入を目的にしている人であれば、低い年収であってもそれほどの不満はないのかもしれません。ただ、特別な技術や才能も特になく年収の高い職種に就けない人については、スキルアップのための自己研鑽が必要になるでしょう。労働派遣法の改正で、派遣会社にもキャリアアップのための教育訓練が義務付けられています。派遣会社とも相談して収入アップのための努力をされることをお薦めします。
派遣社員という就労形態の今後
派遣という就労形態で生計をたてている人は多くいるのですが、今後この就労形態に変化はあるのでしょうか。
厚生労働省の平成28年就労条件総合調査で、派遣社員を活用している会社の現状や今後の意識を発表しています。
現在、派遣社員を活用している会社が3年前に比べて派遣社員の数が増えたかについては、「増加した」が44.2%、「変わらない」が21.4%、「減少した」が34.4%で、やや増加している傾向がみえます。
また、3年前と比べた派遣社員を活用する業務の変化状況については、「自社の従業員で実施していた業務で派遣労働者を活用するようにした」が16.3%、「派遣労働者を活用していた業務を自社の従業員で実施するようにした」が11.1%、「新たな業務で派遣労働者を活用している」が5.5%となっています。まだまだ派遣社員を活用したいという意識がみえています。
現在派遣労働者が担当している業務の今後3年間の予定をみると(3つまでの複数回答)、「引き続き派遣労働者を活用する」が77.2%、「現在受け入れている派遣労働者を自社従業員として直接雇用する」が32.7%、「現在受け入れている派遣労働者以外の者を新たに自社従業員として雇用する」が21.5%となっています。
継続雇用や社員としての登用についての数字が高く、派遣社員の有用性は一定程度認められているようです。
数年のレベルでは、派遣という就労形態が大きく変わることはないようですが、世の中の景況感などがいつ大きく変わるかは解りません。
専門的な技術、能力、資格などを身につける努力をして、正社員への登用やより年収の高い派遣社員への道を切り開くなどの準備を怠らないようにすることが大切なことのように思えます。
収入は職種で異なるので、スキルの向上などの努力が必要
派遣社員の年収は職種によって異なりますが、平均で200万円弱から500万円弱までかなり広い幅があります。高い年収の職種はソフト開発やシステムエンジニア、機械設計など、専門的な技術やスキルを必要とする職種になります。それに対して、低い年収の職種は単純な労働作業がほとんどです。
派遣という就労形態はここ数年はあまり変わることはないと思われますが、いつ世の中の状況が変わるかは解りません。専門的なスキルや資格を取得する努力が、不安定な就労形態の派遣社員には常に必要なことのように思えます。